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Interview

「FF」「吸血鬼ハンター」天野喜孝氏に訊く!作品を3D化した「VRミュージアム」プロジェクト成功秘話

YUKO MORITA
YUKO MORITA

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ゲーム「FF」シリーズ、アニメ『ガッチャマン』『タイムボカン』など数多くのキャラクターデザイン、そして菊地秀行「吸血鬼(バンパイア)ハンター」シリーズ、田中芳樹『アルスラーン戦記』の挿画など、ファンタジックで妖艶、独特の世界観の画を世に送り出してきた、日本が世界に誇る希代のアーティスト天野喜孝氏。
その天野氏の100点を超える作品をデジタル化し、スマホやVRヘッドセットでいつでもどこでも楽しめるバーチャルミュージアムを作ろうという画期的なプロジェクトがKickstarterに登場、大きな話題となりました。プロジェクトは成功、世界から1,112名(うち日本からは63名)が支援、金額にして約2,000万円を達成しています。
VRミュージアムという発想、そしてプロジェクト成功までの道のりなどについて、天野喜孝氏(プロフィール )と、30年来の仕事仲間であるマネジメント担当・鈴木真理氏のお二人におききしました。

クラウドファンディング挑戦について

―― 「VRミュージアム」というアイディアは、どのようにして生まれてきたのでしょうか。

天野:これはマネージャー(鈴木さん)のアイディアだったのですが、面白いなと思いました。ぼくはもともと映像から入ってきているので、とっかかりやすかったです。アニメ制作での経験が活かせると思いました。
鈴木:メタバースやVRを知って、この技術を使えば、天野の才能を世界の、より多くの人々に知っていただけるようになる、と思ったんです。

―― 着想から実現化まで、どれくらいかかったのでしょうか。

鈴木:構想は2年ほどです。私たちだけで実現するのは無理なので、ずっと「やりたい」と言い続けた結果、やっと昨年になって日テレの関連会社さんがサポート企業として手を挙げてくださって。そして今年に入って始動し、半年ほどでローンチしました。

―― たくさんあるクラウドファンディングのプラットフォームの中からKickstarterを選んだのには何か理由がありますか? また、Kickstarter前にどこかほかのクラウドファンディングでプロジェクトをやられたことはありましたか?

鈴木:Kickstarter以前に、クラウドファンディングの経験はありません。Kickstarterは、特にクリエイターを応援する姿勢や世界で展開している、というのが私たちの目指しているものと合っていたと思います。もちろんすでに「天野喜孝」ファンは世界中にいるのですが、もっと広めたい、と思っているので。

天野:世界で展開しているというのもそうですが、支援をしてくださる方々と一緒にプロジェクトを育てていく感じがするのも、アーティスト側から見ると、とても魅力的ですね。

―― プロジェクトを始めるにあたって苦労したこと、またよかったことにはどのようなことがありましたか。

鈴木:苦労したのは、座組です。今現在は最高の、一流のチームとして動いているのですが、そのチームができるまでが大変でした。チームには才能だけでなく相性もありますから……。たとえばCGチームですが、全員が天野の大ファンなんです。こちらがびっくりするほどの熱意で取り組んでくださっています。

天野:そう、人間が大切ですね。一緒にやって楽しいか、楽しくないか。CGチームは台湾の方たちなのですが、これが、すごい。素晴らしい技術を持っているんです。僕の作品のことをよく知っていて、理解してくれていて、その分とてもこだわって時間をかけてレベルの高い仕事をしてくれています。その熱がこちらにも伝わってきて、いい相乗効果を生むのですね。この出会いは本当によかったと思います。

―― プロジェクト成功のカギはチームプレイにあり、なのですね。

天野:それぞれの才能がある人が、同じ目標に向かって一緒に切磋琢磨する──。一種の運命共同体的な強い絆を感じます。デジタルでやる、といってもやっているのは人間なので、やはり人間関係が、チームの結束がとても大切だと思います。

―― プロジェクトページ作成は、どのように進められましたか。

鈴木:サポート会社さんと一緒に作成しました。ページの構成や写真など、こまかい内容まできっちり打ち合わせをして進めましたね。

―― PRについておききします。PRで効果的だったこと、意識的になさったことなどを教えてください。

鈴木:大きなものとしては、日テレのHPに入れていただいたり、ファイナルファンタジーが35周年で、スクウェア・エニックスのほうで様々なイベントや宣伝がありましたので、そこに情報を入れていただくようお願いしたりしました。あとはとにかくゲーム系のSNSやウェブサイトにアプローチしましたね。ゲーム好きでネット上でクラウドファンディングできる年代の人々に届けないと、と思ったので、新聞や雑誌、TVよりもネット&ゲームだと絞り込んで活動しました。

―― 天野喜孝さんに興味のある人たちに確実に届けるために有効なPR戦略をしっかりと練られたのですね! 実は「キックスターターナビ」でもリリースを配信したのですが、ゲーム関係のメディアを中心にネット上、33もの媒体でニュースとしてとりあげられました。

作品づくりについて

―― デジタル化したことで、作品作りに変化はありましたか。

天野:せっかくバーチャルで、新しいメディアでやるのなら、新しいことをやりたいと思って、様々なことに挑戦しています。3Dにすると、平面だったものからその空間全体が作品となるんですね。それが面白いんです。

鈴木:天野はとにかく着想が(時代に対して)早い。世間より5年は早いので、理解されないこともあったし、彼がそれをやった最初の人間であると証明するのも難しかったんです。なので作品ができても「まだ世間には出さないで!」とストップしていたくらい(笑)。でもデジタルになったならば、ちゃんと「これは“いつ”天野喜孝がやった」と証明できるので、すぐに出せるようになりました。それはデジタルになってよかったことですね。

天野:おかげでどんどん新しいものに挑戦して、発表できます。発表すると、見た人から反応が得られるのがいいですね。またせっかくバーチャルでやるのなら、過去の作品を新しい表現法で見せるのも楽しいと思いました。

―― 過去の2Dの名作を、3Dで観られるというのは、観る側にとっても大変な刺激であり、新たな発見がありますね。

天野:一つの作品を作り上げる過程には、いろんな試行錯誤があるので、裏にたくさんの違う作品が存在します。1枚の絵の裏に100枚くらいある。それらは未発表のまま、保存されているんですよ。

―― みんなのよく知っている「あの絵」の別バージョンがあるということですね。それはファンからしたら生唾ものですね……! 

鈴木:そういう作品もバーチャルでなら簡単に見せていかれるので、バーチャルミュージアムに可能性を感じています。誰もやったことのないことをやるので、とてもやりがいがあります。

―― 長いお付き合いの鈴木さんから見て、天野さんはどんな方ですか。

鈴木:天才です! そして食べて寝る以外、いつも絵を描いています。仕事中「ちょっと休もう」と言ってまだ何か描いている。見ればかわいらしい画をささっと描いてるんですよ。先生休んで!と言っても、それが息抜きなんだと。

天野:好きなんですね。絵を描いていることが……。

―― 天野さんのあの個性的で独特の世界観は、どうやって生まれてくるのでしょう。

天野:まずじっくり考えます。すぐに作画にはとりかかりません。まず頭の中で世界観を作り、その世界観に入りこんで、初めて絵にできます。そうして描き始めると、思っていたのと違う方向にいくこともあるんですが、それも面白い。また、空間がとても大切ですね。例えば東京で描くのと、信州の空気の中で描くのとでは全く違う。作品が違うものになります。

―― 今後やってみたいことや計画はありますか?

天野:誰かと一緒に、即興でその場で作品を作っていくことに興味があります。誰かが命令したりリーダーということではなく、みんな平等で、一番いいアイディアのものを拡げていくというような。もちろん、今までの作品も見ていただきたいですが。

―― ジャズバンドのジャムセッションのような感じですね。面白いですね! 

鈴木:最終的には、リアルの美術館を目指しています。このバーチャルミュージアムの経験を活かしていければ…と思っています。

―― 最後に、若いクリエイターに天野さんからメッセージをお願いできますか。

天野:自分だけを信じてほしいですね。まわりはいろいろ言うかもしれないけど、信じて自分の世界に突き進んでいってほしいです。

―― ありがとうございます。VRミュージアムの完成を楽しみにしております。立体になった天野作品が楽しみでなりません。本当にお疲れさまでした。 

2022年11月には京都での個展も企画しているという天野氏。あの数々の名作を生みだした氏は、とてもおだやかで、優しい雰囲気の紳士でした。
もともと友人のつながりで知り合ったという、マネージャーの鈴木氏との息もぴったり。プロジェクト成功のキモは人間にあり、というお二人は、自分たちではできない部分は得意な人の力を借り、自分たちでできる部分には全力で向かい、チームをまとめて、結果、よりよいプロジェクトとして発展させていきました。
入念な準備、的確なPR活動、支援者の声をきく姿勢── など、プロモーションの基本をしっかりと実行されていたことも印象的でした。そうして一つ一つのプロセスをきちんと積み重ねていくことが、プロジェクト成功のカギと言えそうです。

天野喜孝

1952年、静岡市生まれ。画家、キャラクターデザイナー、イラストレーター、装幀家。舞台美術や衣裳デザインも手がける。
1967年アニメーション制作会社タツノコプロダクションに入社、『タイムボカン』等のアニメのキャラクターデザインを手掛ける。1987年より「ファイナルファンタジー」シリーズのロゴ、イメージイラストを担当。
1986年第14 – 17回星雲賞、2000年アイズナー賞:“THE SANDMAN:The Dream Hunters”(ニール・ゲイマンとのコラボレーション)、2000年ドラゴン・コン賞、ジュリー賞、2007年第38回星雲賞、2018年インクポット賞(コミコン 2018)受賞。
天野喜孝 OFFICIAL WEBSITE

鈴木真理

1966年、埼玉県鳩ヶ谷市生まれ。 十文字学園女子短大卒業後、厚生省(現・厚生労働省)勤務を経て、1990年より天野喜孝氏のマネージャーを務める。
2002年、天野氏の原画をもとに画集「N.Y. SALAD」をプロデュース。2005年の絵本「眠れるレタス姫 N.Y. SALAD」ではストーリーを制作。また、アニメ化作品『やさいのようせい N.Y. SALAD』(2007-2008年)ではプロデューサーと脚本を手がけ、同作品は国内外で好評を博す。
2020年刊行の「天野喜孝 Art History」は、初のノンフィクションエッセイ。